紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp 
ホーム メールマガジン リンク集 サイトマップ 更新情報 研究所

  

 地域の環境資源を考える


 
紀伊半島の中山間地域では、林業と比較的小規模の農業経営が営まれている。近年の農林業の低迷状況から、これら中山間地域においては、就業人口の減少をくい止め、維持させることが難しくなってきており、少子・高齢化と過疎化が進んでいる。

 その重要な背景として、農林産品の
グローバル化(国際化)があり、日本に押し寄せる海外商品は、廉価であり、一定の品質が確保されたものが、大量に出回っている。一方では、安い農産物や食品、日用品、その他の商品は、労働所得が伸び悩んでいる国民にとっては、ありがたいものとなっている。しかし、輸出国は環境を犠牲にした非持続的な森林伐採、農産物を生産するための大量の水消費や土壌浸食、長距離輸送にともなう炭酸ガス排出とエネルギー消費、安全性に課題のある農薬使用など多くの問題を抱えている。
今後も、海外諸国とのFTA(自由貿易協定)経済連携協定(EPA)の交渉の進展・締結によりグローバル化がますます進んでいくと予測され、中山間地域においては農林産物の販売の他にも収入の得られる生業を興していかなくてはならない。

 日本の農林業に大きな影響を与える
グローバル化の下で、中山間地域の産業と社会を維持していくためには、国際化の問題点を明らかにし、これと対置した形で地域ならではの特徴を明らかにし、
地域資源を保全・再生、それらを活かして都市住民との交流を図り、消費者の支持を得ていくことが重要となっている。

 地域に根ざした産業を育んでいくための基盤として、
地域資源を再発見し、磨いていくことが重要となる。
地域資源として、白井(2003)は、「いちから見直そう! 地域資源」という本の中で、「地域に固定され地域内で活用・消 費される固定資源」と、「地域で生産され地域外でも活用・消費される流動資源」に分けている。前者には、(1)気候的、地理的、人間的条件(人口分布・構成等)を含む地域条件、(2)原生的自然、二次的自然、野生生物(稀少生物、身近な生物)、水資源、環境総体(風景、環境の同化能力等)、エネルギー・地下資源等を含む自然資源、(3)歴史的資源(歴史的文化財、郷土出身者等)、社会経済的資源(伝統文化、祭り等)、人工施設資源、人的資源(技能、技術、知的資源、労働力等)、情報資源(知恵、ノウハウ、電子情報等)を含む人文資源がある。後者には、特産的資源、中間生産物(間伐材等)や循環資源(家畜糞尿、廃棄物等)が含まれると整理している。

 上記のように地域資源は極めて多様である。それぞれの地域で、地域資源を活かして地域を活性化した例は多い。例えば、紀伊半島南部では温暖な気候という地域条件を利用して、カンキツ類の栽培が盛んになりつつあり、中山間地域ではお茶の栽培が盛んである。その他、高級材としてのヒノキ材の生産、森林資源を利用したキノコ栽培等の特産物が生産されている。今後とも、農林関係の地域特産的な商品を開発・販売していくことは、地域の持続性を高める上で極めて重要である。 

 ところで、平成11年(1999年)に公布された
食料・農業・農村基本法では、中山間地域の農業振興、農村の持つ多面的機能の発揮、都市と農村との交流促進など、新たな施策が掲げられている。農山村地域における農業環境資源としては、農業を営む上で必要な、田畑、用排水路、河川、ため池、ダム、道路などがあり、これらの維持管理が必要であるが、高齢化、過疎化、混住化の下で難しくなりつつある。これらを適切に維持管理しつつ、同時に、農山村、とりわけ、中山間地域では、農業環境資源を含めた里地里山の環境保全と再生を図っていくことが、地域資源の活用を図っていく上からも重要となっている。

 すなわち、中山間地域の二次的自然、二次的自然と農村文化とが融合した景観、棚田、歴史的家屋や施設、巨木、野生生物の多様性、農林業体験をする田畑と森林、自然観察や学習をする川や湖沼等の水辺、魚道や畦畔植生等の環境保全に関わる工夫と管理、散策に適した農道や林道等を単に生産のためでなく、
グリーン・ツーリズムなど都市住民との交流を図るための地域環境資源として見直し、保全・再生し活用することが重要となっている。

 これらの地域環境資源の保全と活用には、それを維持管理し、それに詳しい地元の人の存在が必要不可欠である。
環境資源のインタープリター(解説者)は、初めてそこを訪れて見る人にその魅力を十分に理解してもらい、ファンになってもらうために必要である。インタープリターは、宿泊施設の管理人であったり、農家であったり、地域住民であったりするが、いずれにせよ地域で環境資源の保全に取り組む人達を大切にし、それを奨励し育てていく必要がある。

 地域資源を利用した地域興しの事例は、参考文献に示した本やテレビ番組でも紹介されている。例えば、徳島県上勝町で裏山の木の葉や花などを、料理に添える「つまもの」として商品化した例、高知県梼原町で棚田オーナー制を全国に先駆けて導入し地域を活性化した例など、幾つもの例がある。これらは、ほとんどの場合に、その事業を考えつき、粘り強く使命感に燃えて引っ張っていく
リーダーの存在があった。もちろん、地元の協力も不可欠であることは言うまでもないが、はじめから皆の賛同が得られていたわけではない。地域の活性化が一時的ではなく持続的であるためには、それに携わる人たちが収入を得られるようにするとともに、それによって環境資源が保全され、持続的であることが重要である。

 日本で地域の環境資源を活用した
グリーンツーリズムは、欧米の場合と違って、「地域経営型」が主流であり、行政が積極的な役割を果たし、地域ぐるみで協力してシステムを作り上げていくという特徴があるとされている。従って、役場の職員や農協職員、普及員などが、かなり重要な役割を果たすことが求められる。地域活性化が求められている地域の職場で貴重な人材を採用する際には、単に事務能力だけではなく、地元に入って有望な地域資源を探し出し、これを地域の活性化に結びつけるような企画能力や実践力、コミュニケーション能力等の優れた者を探すことが、地域活性化に有効である。

 また、今後、
団塊世代の大量退職があるので、地域で地元にない職歴や経歴を有する多様な人材を把握し、条件が許せば帰郷・移住してもらい、そのノウハウを活かして地元の産業育成や活性化に協力してもらうようにすることも必要であろう。

 
市町村の広域合併によって、かつてのように旧町村レベルで自律的に地元産業を育成していくという活力が減じないか危惧される。地域の地元組織、農協、研究会等のグループなどが外部の意見や知恵も取り入れながら、地域の活性化を主体的に考え、実践していくことが必要となっているのではないだろうか。(2007.1.25記)

(写真は、熊野市紀和町丸山千枚田の風景) 


参考文献


「地域の環境を守り活かす」へ
「ホーム」へ